第十三回:ブルネッロ ディ モンタルチーノ
僕が初めて、東京の店を任された時、ちょっとその店は経営的にうまくいっていなくて集客するのが大変であった。スタッフはいい料理を作っていたし、個性的ないいメンバーがそろっていたので何とか繁盛店にしたかった。
僕に出来る事といったら、人間らしい暖かいサーヴィスを心がけること。また時には沿線のオフィスやビルを一件一件挨拶まわりをして店を宣伝したりした。20代後半の若さもあったし、微力ではあったが「やれることは全部やって、後は野となれ、山となれ」と思っていた。ワインのサーヴィスに関しては高級店ではなかったので、3000円から5000円のワインでいい物を探すため日々、輸入元の試飲会にでかけていた。その時期僕は「いつかいいモンタルチーノをコンスタントに売れるようになれたら。」と思っていた。
このワイン、トスカーナいやイタリアを代表する独特の品格を備えた高級赤ワインでである。サンジョベーゼ グロッソ種またはブルネッロ種と呼ばれるサンジョヴェーゼのクローンから作られる。モンタルチーノの街へ行くと分かるのだが、とても勾配のきつい土地が多く、重厚な雰囲気が漂っている。イタリアワインファンのあいだでは大きくバローロ派、ブルネッロ派に分かれていた時代もあった。
近年一部のワイン通は「モンタルチーノは高い。トスカーナにはもっとコストパフォーマンスに優れたいいワインがいっぱいある。」なんて言う人もいる。実際僕も東京で働いていた時はその手のワインを探しまくっていた時期があった。 しかし、実際現地に訪れて、畑を見学したり、造り手の話しを聞いたりすると、色々と分かった事があった。
小生産者が非常に多い。急斜面が多い。あるカンティーナを見学したときに断崖絶壁の畑を目にしてびっくりしたものであった。勿論機械が入り込めないので必然的に手作業になり労働コストも上がる。またサンジョヴェーゼは収獲時期が遅いので秋の雨季の影響を受けやすいのでヴィンテージによって差が出やすい。何かとリスクの多い生産地ではあるがやはりブルネッロにはブルネッロにしかないスケールの大きな芳香と偉大な風格がある。
代表的な造り手は自然の生態系を考慮し、細部に至るまで凄まじいこだわりのナチュラルな造り手カーゼバッセ。自分の手に負える量しか作らず、納得いかない年に断固として生産をしない達人サルヴィオーニ。トラディショナルな誠実な造り手イル ポッジョーネ、エレガントなポッジョ ディ ソット。抜群の果実味の際立った味わいのピエトローゾを個人的にお薦めしたい。程よく熟成されたいい造り手のものと鳩のローストは抜群の相性である。
付近のお薦めリストランテはシエナから北へ車で20分ぐらいのところにあるコッレ ヴァルデルサという小さい町にある「アル ノルフォ」だ。広大なトスカーナの丘陵地帯を見渡せる素晴らしいロケーションのなか伝統的な要素を取り入れたクレアティブな料理を楽しませてくれる細かい気遣いの嬉しい店である。
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