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第五十五回: ボナルダ フリッツアンテの思い出
イタリア北部ロンバルディア州の南に芸術の街マントヴァがある。
そこから車で10分くらいの場所にゴイトという小さい街にあるアル ベルサリエーレ
という二つ星のリストランテで働くことになった。
店の脇にミンチョ川という美しい川が流れる雰囲気の素晴らしい店であった。

しかし、最初の職場ということもあって、旧式サービスのやりづらさやパトロンとのコミュニケーションの難しさに参っていた。
いわゆるイタリアの壁というやつである。

そんなキツイ仕事の合間、わずかな休みを利用して近くのBarのテラスでよく冷えた赤の微発泡ワイン、ボナルダ フリッツァンテを飲むのが僕の楽しみであった。
ブラックオリーブとルーコラのたっぷり入ったサラダと最高の相性で、ミンチョ川から
吹き付ける風に当たりながら仕事の悩みや疲れから開放されるひとときであった。

ある日の忙しいランチのことである。
一組の親子連れがいて4歳くらいの子供がピカチュウのおもちゃを持って退屈そうにしていた。
僕は仕事の合間を縫って彼が退屈しないよう遊んであげたり、気をつけていた。
そして、彼らが店を出るとき父親が僕と握手をした瞬間、5ユーロ札を手に押し込んでくれた。

初めてのチップである。

休憩時間、中庭で僕の目から涙があふれて止まらなかった。
イタリア修行のうまくいかない現実の中で彼ら親子の粋な計らいと暖かさが
僕を励ましてくれているようで泣いても、泣いても涙が止まらなかった。

ゴイトという小さい街の思い出は美しいミンチョ川とピカチュウの少年、
そして、果実味とのど越しが爽やかで少しだけ涙のしょっぱい味がするボナルダ フリッツァンテである。

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